2021/03/15贋作・吾輩シリーズ

吾輩は犬である。名前はボン。


外犬舎に暮らして居る。
吾輩は存外有名なようである。毎日14時頃には人前で走り回り、ある時は駅前で募金活動をしたり、学校の授業にも参加したりしているからである。
吾輩、走るのが好きである。14時頃には運動場でいつもと同じ面々がいろんな犬と戯れておる。頭から後光が差している黒シャツと、服にシャチを泳がせているキツネのような目の男がたいていボールを持っている。
この2人が遠くで共に走り回る仲間のリョウにボールを奪われ振り回されておる。
吾輩はこれでも賢いと自負しているので、そんなわんぱくなことはしない。横目でリョウに振り回される面々を眺めながら歩いている。吾輩は横目で見ているだけである。
吾輩は上品なのである…。


………。
そんな意識とは裏腹に吾輩の足はボールに向かっていく。ボールを持っているのはキツネ目の男だ。
余談だが吾輩はこの男の施設外の姿を知っている。キツネ目は外部に出るとあがり症でしどろもどろになり、元来早口で滑舌が悪いのに、さらにそれに拍車がかかる。そのくせ施設の中では平然としておる。よし、それを他の人に教えてやろうと思ったが、吾輩賢くても喉の構造上人間語を話すことができぬ。仕方ないやめにしよう。
吾輩は賢いので名前を呼ばれるとすぐそちらへ向かう。決してボールの為ではない。キツネ目はここぞとばかりに吾輩の前にボールを投げる。ボールを投げられればそれを追いかけずにはいられない。これは自然の道理というものだからやむを得ない。吾輩は弾む足取りと共にボールに振り回される。追いついたら咥えてみる。咥えてはみたものの少し不器用だということを自覚した。すぐに落としてしまう。


咥えては落とすを繰り返す。ボールをよく見てみるとほつれた部分がある。吾輩はやはり賢い。そこを咥えれば良いのだ。吾輩の鼓動は高まる。


俗に言う「ルンルン」とはこのことなのではないか。弱ったことに吾輩はまた賢くなってしまったようだ。

読者は気づいていないかもしれないからここで自白する。なんだかんだ御託を並べたが吾輩は実はボールが大好きなのである。

飼育班:島田

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